近年、「多様性の尊重」の重要性が指摘されています。
ただ、残念ながら国全体でも大学コミュニティーでも、まだまだそれに反する現実を目にします。
ここで政治的な主張をしたい訳ではなく、あくまでもメンタルヘルスの観点から、この多様性の尊重の意義を少し考えてみたいと思います。
それにあたり、統計の研究者である岡檀さんが子どもを対象に行った調査からとても興味深い結果を示しているので、少しだけ紹介します。
岡さんは「子どもコホートスタディ」という研究で2017年から小学5年生を追跡調査し、子どもが未来を生き抜く力やそれに影響を及ぼす要因を調べました。その結果、コロナ前後も、中学進学後も、一貫してうつ的傾向になりにくいのは、周囲の評価を気にかけないことと、「統計的思考」を有していることという結果を見出しました。
この統計的思考とは、広い視野で物事を眺め、状況に応じて柔軟に対応を変えるような、バランスの取れた柔軟な考え方のことです。
そして、ここからが特に興味深いのですが、その統計的思考を損なうものはなにかというと、地域の「保守的な男女役割観」だったということが統計的な分析から導き出されたのです。
このことは、個人の生活習慣や性格特性だけでなく、多様性尊重に関する周囲の人の価値観が子どものメンタルヘルスを左右する可能性を示しています。
つまり、「女なんだから〇〇」「男たるもの××」という凝り固まった、多様性を無視した価値観は、そこに属する人の柔軟な思考を妨げ、それがひいては個人のメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしうるということになります。
この調査は子どもについてでしたが、大人も同様ではないかと私は思っています。
日本全体で見ると、そして大学というコミュニティーの中でも、未だ保守的な男女観が強くあることを感じます。このことは、国民全体や大学全体の中でのバランスの良い思考を阻害し、メンタルヘルスの問題を生み出す遠因の一つになっている可能性も考えられます。
多様性が尊重され、様々な意見の表現や価値観の自由が確保され、弱者とされてしまう人にとっても生きやすいコミュニティーを実現していくことは、その中の全ての人の心身の健康のためにも大切と言えます。まずは、私たち一人ひとりが自分の日頃の言動を振り返ることが、コミュニティーや社会全体をより豊かに生きやすくするための一歩になるのかもしれません。
(大塚)