内なる心の静けさ

2020.04.01

こんにちは。カウンセラーの古川です。
なんとなく心が落ち着かない騒がしい春ですが、皆さん、如何お過ごしでしょうか。

少し前のことですが、金沢の21世紀美術館というところに行ってきました。お庭も建物もとても素敵で、お散歩しながら体感できるようなインスタレーションがたくさんあります。中でも、「カプーアの部屋」という展示室が心に残ったので、ご紹介します。

Anish KAPOOR
21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
L'Origine du monde(世界の起源)

洞窟を思わせるような薄暗い室内に入ると、少し傾斜したコンクリートの壁面があり、その中央に大きな楕円を見ることができます。じっと見つめていると何とも不思議な感覚に陥ります。真っ黒い盛り上がりはこちらに迫ってくるようにも見え、また際限なく落ち窪んでゆくようにも見えます。居心地がいいような、悪いような。なんとなく不安感や違和感があるのに、飽きずにじっと見つめてしまいました。作品解説によると、この黒の楕円は、平面に青い顔料で塗られているのだそうです。幾通りもの「見え」を可能にし、実態を捉えることの困難さで、私たちの知覚を揺さぶるこの空間自体がアート体験なのでした。
何もない空間に、ぽっかりと拡がる闇。こちらに、迫ってくるのか、私たちを呑み込むのか。この闇、この無と、私たちはどう関わることができるのでしょうか。色々と考えさせられる体験でした。実際の仕掛けでは、ただ平面に塗られた色彩なのです。私たちがどう対象と関わり、世界を見るのかが問われているように思いました。

最近は、連日ウィルスに関わる報道が続いています。東京を中心に首都圏でも、外出禁止の要請が出されました。もともとは、旅行が大好きで長いお休みがあれば、どこか遠くに出かけたくなるようなタイプでしたが、この週末は心ゆくまで、家で過ごしてみました。身の周りを「断捨離」したり、備蓄を見直したり。時間が出来たら、料理やお菓子作りをしたいと思って買い込んでいた食材や道具、レシピ本の数々には少々呆れました。日頃、「忙しい」ことを言い訳に読んでいない本や、まだ観ていない映画もたくさんです。外出「禁止」と、とらえるとなんとなくストレスフルに感じてしまいますが、外にアクティブに刺激や冒険を探しに行くだけでなく、私には、家の中で出来ること、楽しめることは、まだ沢山あったみたいです。何より、自分自身が、本来したかったはずのことなのです。時間をかけて手作りの物を食べる、お香を焚いてみる、などしてみたら、意外なほど心豊かに過ごすことができました。お気に入りの白檀のお香は、しんしんと雪の降り積もる静かな日に似合い、よく香りました。

そうして、じっくり日々を過ごしてみる中で、私自身、何か「すること」を心のどこかで探してしまっていたことに気付きました。何もしないこと。無や空と付き合うこと。思えば、日本人はそういうのが、得意だった気がしますね。よく言われるように、日本美術や建築には、「なにもない」ことの美しさ、その洗練された例をいくつも垣間見ることができます。私たちの世界は、いつの間にか、どんどんとスピードが早くなり、情報もウィルスも、世界に行き渡るのがあっという間になりました。私たちのこころの内側に拡がる豊かさや静けさが試されているときなのかも知れません。

最後に、少しでも気持ちが明るくなるような写真を選んでみました。先日、通勤の合間、ふと空を見上げると満開のお花が咲いていました。

何気ない日常のなかにも、穏やかさや安らぎを見出していたいと思います。

いつもと違う春となり、疲れや落ち着かなさを感じている方も多いのではないかと思います。学生相談所は、再開してまた皆さまとお会いできる日まで、静かに力を蓄えているところです。こころが疲れてしまった方、誰にも言えない思いをお話されたい方、どうぞご利用下さい。