ムンクと影

2019.01.30

こんにちは。カウンセラーの大塚です。

平成最後の年、みなさんはどんな幕開けとなりましたか。

私は「せっかくならディープな年明けにしてみるか~」と思い立ち、『ムンク展』に行ってきました。
見ているだけでちょっと具合が悪くなりそうな印象のあるムンク。ネクラな私は結構好きで画集を持っていたり、授業の素材に使ったりしています。ですのでかねてから一度は実物を見たい!と思っていたのです。
時は正月3が日。さすがに年明けムンクは空いているだろうと思っていたら大間違いで、まさかの1時間待ちの大にぎわい…。(うーむ、なかなか皆さんもネクラじゃないか〜笑)と勝手な連帯感を抱きながら意を決して突入してきました。

特に私は『思春期』という作品を見たいと思っていました。この作品は主題として描かれている少女の背後に、少女を飲み込むような大きな影が描かれており、人間の「影」の説明として深層心理学系の文献で取り上げられることのある作品です。「影」とはその人や集団が意識的に生きてこられなかった側面のことです。人は日々を安定して生き抜くために、ある程度固定化した生き方や価値観を持っています。そのため、そこから排除された生き方や態度は否定的に評価されやすく、それが「影」に集約するという考え方です。そして「影」は本人と生きていくことを望むため、あまりに無視され続けると強大な影が本人を飲み込んでしまうこともあります。例えば、感情を切り捨てて実利だけを絶対視して生きてきた人が、家族から愛想をつかされたことで激しく感情を揺さぶられ、精神的破綻をきたすというように。(→この辺りにご興味がある方は河合隼雄著『影の現象学』がおススメです)

残念ながら『思春期』は展示されていませんでしたが、いくつもの作品にその独特で存在感のある影が描かれていました。さすがにその影の前にずっといると、こちらの世界とあちらの世界のどちらが実在なのか分からなくなるような、ちょっとした恐怖に襲われていきます。ムンク自身かなりの精神的危機を経験したとされる人ですし、人間の心の闇や深淵、ひだへの感性が人一倍鋭い画家だったのかもしれません。

同時にその絵は実際に見ると、妙にポップで可愛らしくもありました。その名も直球な『メランコリー』はさぞ憂鬱感満点だろうと思っていたら、なんだかちょっと拗ねた中学生のように愛らしくも感じられましたし、世界が滅びるような経験を描いたとされる『叫び』はポップアートのようでもありました。個人的な印象としては、どこかに救いがあるように感じられるものでした。ただ陰鬱なだけではなく、救いや祈り、遊びがあるからこそ多くの人の心に触れるのかもしれません。そして、おそらくそこに至るまでの過程にはムンク自身の影との壮絶な戦いがあったのだろうと思います。

カウンセリングにおいても、その人が生きてこられなかった影の部分に注目し、人生の中に入れ込んでいくことは大切なプロセスと考えられています。みなさんの影はどんなメッセージを発していますか?