拍手の同期

2018.07.11

カウンセラーの大塚です。この頃はあまり時間が取れずに行けていませんが、音楽や劇など、ライブに行くことが結構好きです。プロのアーティストが発する生の音や息遣い、その時その場だけの表現に触れると、他では得がたい感動やエネルギーをもらいます。

そういった感動的なライブでは、多くの場合である現象が起こります。それは、主にライブの最後に観客が発する拍手が調子を揃えて同期(シンクロ)していくという現象です。最初は各自が思い思いにしていた拍手が、誰が指揮している訳でもないのに勝手に調子が揃っていき、やがて一体化していきます。その時の自分はアドレナリン分泌しまくりの興奮の絶頂にいるので、「オー!」とか「イェーィ!」としか感じていませんが、よくよく考えてみると不思議なものです。学校で先生が「前へならえ!」と号令をかけたとしても子ども達の行動がきれいに揃うのは至難の技ですし、講演会や学会などで発表の後に送られる拍手が揃うということは見た試しがありません。ところが、心動かされるライブでは何千、何万の人の拍手が勝手に揃っていくのです。

この現象について、ゾルダン・ネーダという物理学者の研究チームが1999年に実験を行い、そのプロセスを検証しました。すると、拍手は【①最初バラバラ→②自然に遅いテンポで同期→③また不ぞろいに】を繰り返すことが分かりました。そして、彼らはこの同期のメカニズムについて以下のように結論付けています。【①聴衆全体で誰もが息の合った拍手を望んでいるとの考えが働き、合わせるために自然と遅くなる。②遅くなると一定時間内の拍手の回数が減り、それだけでは興奮を十分に伝えられないと感じる。③自然とスピードアップし、大きい音を発生させるが、そうするとバラバラになる。】 興味深いことに、この同期は聴衆が真に熱中していない場合は見られないというのです。

人間は、他人から強制された時ではなく、自ら熱中し感動する対象と出会った時に自然と誰かとつながろうとする、そんな生き物なのかもしれませんね。最近は社会全体でやたらめったらコミュニケーション重視の風潮が見られますが、他者と関わるためにもまずは自分の感性や心が動くような体験を大事にしてみる、というのはいかがでしょうか。