孤独と寂しさについて

2024.04.06

例年より遅く咲き始めた桜がようやく満開を迎え、新年度が始まりました。閑散としていたキャンパスに少しずつ賑いが戻り、お昼どきの学食に行列ができるようになると、また新しい春が巡ってきたのだなと実感します。

今、学生の皆さんの毎日は様々な新たな出会いに満ちていることでしょうし、こんな時期に孤独の話をするのは少しミスマッチに感じられるかもしれません。しかし、このタイミングだからこそあえて孤独の話を書いてみたいと思いました。

独りで過ごしているとき、あるいは誰かと過ごしているとき、皆さんは孤独を感じることがありますか。そして、その孤独とはどのようなものでしょうか。

本学の教員である國分功一郎先生は、過去の対談でハンナ・アーレントの言葉を引用し、「孤独」と「寂しさ」の違いについて言及されています。「孤独(solitude)」とは自分自身と対話し、物事を考えることができる状態で、「寂しさ(lonliness)」は独りでいられず、一緒にいてくれる誰かを探してしまう状態だそうです。この考え方に照らせば、「孤独」は私達にとって本来豊かな時間なのかもしれません。皆さんが最初に思い浮かべた「孤独」はどのようなものだったでしょうか。

高校・大学時代にコロナ禍をくぐり抜けてきた学生さんたちにとって、落ち着いて「孤独」を味わうことはとても難しいのではないかと想像することがあります。感染対策として長期間の外出自粛が続いた後で社会的交流の機会が回復し、今や流行前とほとんど変わらない社会的活動が可能になりました。長い間交流が抑圧されてきた反動もあるのか、昨今はより多くの人に出会い、より短い時間でより有益な情報を交換することに価値が置かれすぎているように感じることがあります。「コスパ」「タイパ」という言葉はまさにこのような価値観を象徴する言葉のように思います。

皆さんは、独りで何も予定なく過ごしている時間をゆっくり味わえているでしょうか。特に春は立て続けに新しいものと出会うせわしい時期でもあります。急いで新しい情報を吸収して何か意味のあることをしなければと焦り、あるいは空虚な思いにとらわれ、まごまごしている間に他者に先を越されているのではないかと不安に陥っている方も少なくないのではないでしょうか。この感覚は、「孤独」ではなく「寂しさ」と言えるでしょう。

学生相談所でお手伝いできることのひとつは、対話しながら皆さんの「孤独」を支えることかもしれません。何かと気忙しい季節ですが、独りで「孤独」を味わうのが難しく感じられるときは、どうぞ学生相談所においでください。