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センター設立記念公開シンポジウム 「東京大学の相談支援の現状と将来~研究開発と社会連携の視点から~」概要

2020.03.25
イベントレポート

新型コロナウイルスの感染拡大の状況に鑑み、3月3日に開催を予定しておりました相談支援研究開発センター設立記念公開シンポジウムを中止させていただきました。シンポジウムにて発表する予定であった話題提供内容を以下に掲載いたします。

設立記念式典にかえて

相談支援研究開発センター センター長 小佐野 重利

2019年10月1日に、2008年4月より総長室直轄の組織として活動してきました旧学生相談ネットワーク本部の5室(学生相談所、精神保健支援室、コミュニケーション・サポートルーム、ピアサポートルーム、なんでも相談コーナー)を基盤として、グローバルキャンパス推進本部国際化教育支援室において留学生対応を担当してきた教員3名を含む、新たな組織として相談支援研究開発センターが設立されました。センター化の構想から設立まで2年9カ月余りを要しました。その間、五神真総長先生をはじめ、担当理事・副学長、旧本部時代から緊密な連携をしてきた教育研究部局長の先生方から多大なご支援を賜りましたことに感謝申し上げます。

センターは東京大学「学内共同利用教育研究施設」でもありますから、これまでおこなってきました本学学生をはじめとする大学構成員のための相談支援の業務をそのまま引き継ぎ、さらに留学生の支援や学生の就労支援・キャリア開発支援を加えて相談支援活動を拡充展開し、全学的な支援体制の充実を図ります。

今回、WHOによって「世界的流行病」に定義された新型コロナウイルスによる感染症の拡大防止のため、設立記念シンポジウムと記念式典を中止しましたことを関係各位にお詫び申し上げます。この不測の世界的流行病に遭遇したことは、センターにとっても、メンタル面の悩みをかかえるか、あるいは将来の就職活動や就労を心配する学生たちへの新たな支援体制の構築が急務であると痛感させられました。

大学センターとなったので、本学における多国籍の留学生やLGBTQの学生を含めたダイバーシティ対応など、学生の複雑化・多様化する相談支援ニーズに応えるべく新たな実践開発研究も開始します。2つの研究プロジェクトそれぞれに対して、寄付金のお申し出をいただきました大塚製薬株式会社と花王株式会社には、心より感謝申し上げます。センターが、日々の実践を通じて蓄積される知見を相談・支援等の現場に活かし、さらなる学問体系の構築や、将来的には、行政機関や一般社会との連携による東大発の「こころの健康市民科学」の創出をめざすことを期待してやみません。

大学における相談支援の最前線から ~メンタルヘルスの観点から~

相談支援研究開発センター 相談支援部門メンタルヘルス分野 准教授 渡邉 慶一郎

はじめに

精神疾患の生涯罹患率が高いことは以前から指摘されていました.Kesslerらによる推定では約4人に1人は生涯で何らかの精神疾患に罹患する計算です.さらに,罹患した人の約半分は14歳までに,4分の3は24歳以前に発症しているとされています1).大学生年代の精神的トラブルは稀なものではないのです.

精神保健支援室とコミュニケーション・サポートルーム

私たちは,保健センター精神科(精神保健支援室)や,コミュニケーション・サポートルームなどの臨床の場を得て,精神疾患については早期発見や早期治療,また健康診断や講義などでの啓発活動に努めています.そして,高い知能と認知能力の凸凹が共存している発達障害やその傾向がある学生にも,専門的な技術を活用して支援を行っています.いずれも利用者は年々増加しています.最も顕著なのは保健センター精神科の初診学生で,5年前と比較して1.8倍となっており,ニーズの高さを反映していると考えています.

発症や重症化の予防

軽度のうつ病や不眠症には薬以外の方法もあります.例えば認知行動療法や運動療法がそれに当たります.最近ではビタミンやミネラルなどに注目する方法も分かってきました.症状が軽いうちに適切に対処することで,治療に費やすコスト(経済,時間,労力など)の抑制が期待出来ます.さらに進んで,予防的には規則正しい睡眠覚醒リズムや,適度な運動,バランスの取れた食生活が予防的に良いことが分かっています.

私たちは,これまで利用して下さった多くの方々への治療や支援の経験を踏まえ,臨床能力のさらなる向上を目指します.同時に,臨床から得た知見を生かし,予防に資する臨床研究を進めて参ります.本学の構成員が充分に力を発揮できるよう,メンタル面での支援を発展させることを目指します.

1) Kessler R. et al. Arch Gen Psychiatr 2005 62:593-602

大学における相談支援の最前線から ~地域との連携を通じて~

相談支援研究開発センター 相談支援部門留学生支援分野 講師 原田 麻里子

東京大学における留学生の相談の歴史と機能

1990年、国立大学に留学生センターを設置する方針により「留学生センター指導部門」として、本学の受入れ留学生の研究、社会生活上の相談・指導がスタートした。その後、主に「留学生・国際」という側面からの相談支援組織として機能してきた。彼らからは、留学生特有の事情や配慮すべき面、異なる文化習慣での生活からくる相談が寄せられる。ただ同時に「学生」という側面の相談、支援のニーズや情報の必要性は日本人学生と同様であり、多様なリソースによる、支援サービスが受けられることが必要であると感じている。
現在は、日本語・英語・中国語で、相談可能な体制をとり、学業・研究面、心理的相談、日常生活・家族の相談、進路・就職、と幅広く対応している。

交流支援と地域連携

留学生が日本での大学生活を円滑に過ごすためには、相談支援に加え、日本社会との交流、生活面での充実安定が欠かせない。本学では、20年以上継続している地域住民との日本語交流【FACEプログラム】を筆頭に、地域日本語ボランティア教室との連携、近隣家庭へのホームビジットプログラム、企業の協力による社員交流理解事業などを展開している。

留学生の社会貢献と、活躍、定着への可能性

日本社会の少子高齢化と合わせ、留学生の受入れ・グローバル人材の確保が議論されることが多いが、実際、彼らの存在は単に支援される側だけでなく、地域社会に貢献する大きな力を持つ。一例として、文京区との協働事業・「行政文書の多言語化プロジェクト」では、本学の留学生が行政スタッフと共に議論を重ね、文書や窓口案内の多言語化、アーカイブ化に貢献した。また2018年度からは、地域に増加している外国籍児童生徒の日本語・学習教室への支援・協力も行っている。地震防災啓発事業(消防署・行政連携)においても、留学生が地震防災を学ぶのみならず、彼らの存在を関連機関や住民に理解してもらうこと、加えて非常時には共に動き、支援する側にもなりうることへの啓発活動も意識している。

彼らが卒業後も貴重な人材として日本で活躍していく基盤を作ることも、大学の責務の一つと考える。そのためには在学中から地域社会、企業社会との接点を作ることが、留学生へのエンパワーメントとなり、彼らの教育・成長の促進に大きな役割を果たすと考えている。

学内・学外連携によるサポートの充実に向けて

新組織発足により、これまで日本人学生・留学生と別のラインで考えられがちであった相談支援について、学内での連携・共有を強化し、各々の人的・組織的リソースを活用して学生生活を支えていくことが更に期待される。
留学生の在日の長期化、定着化が進む中、今後も学内のみならず、地域住民や関連機関との連携を密に、地域からも求められる存在として、役割を果たしていきたい。

大学における相談支援の最前線から ~心理学的支援の観点から~

相談支援研究開発センター 相談支援部門カウンセリング分野 准教授 高野 明

東京大学における学生相談の歴史

本学の学生相談所は、1953年に日本初の学生相談施設として設置されて以降、大学における心理学的支援のパイオニアとして、多くの学生の心の成長支援のサポートをしてきた。2008年に学生相談ネットワーク本部が発足して以降も、本学における心理学的支援を担う中核的な相談施設として、スタッフや設備の充実を図りながら、その活動を発展させてきた。

心理学的支援の現状

学生相談所は、年間6,000件以上の学生本人や関係者への個別相談を行い、個別ニーズに応じたきめ細やかな個別支援を提供している。また、2015年に開始したピアサポート活動については、100名を超えるピアサポーターを養成し、様々なアウトリーチによる支援を展開しており、キャンパスにおける支え合いの風土作りに貢献している。

写真:IACSの認定証と一緒に

心理学的支援の将来像:相談支援の充実

今後も学生とその関係者への多様なニーズに応じた個別相談を丁寧に行っていくとともに、学生生活を支える全学共通基盤の支援施設として、全学的な予防教育やアウトリーチによる支援を展開していくことが求められている。現代学生の特性に合わせたテクノロジー活用による新たな支援方法の開発を含む、さらなる専門性の向上が望まれている。また、2019年度には、学生相談施設に対する国際認証を東アジアの大学で初めて受けており、引き続きステークホルダーへの説明責任も果たしていきたい。

心理学的支援の将来像:研究開発と社会貢献

大学や地域社会が抱える課題が、社会的に弱い立場の大学生の個人的な問題として現れ出てくることも多く、膨大な個別相談の蓄積を大学や地域コミュニティの変革に繋げていくことがより一層重要になると考えられる。そのような変革を支える学術的な基盤を固めるためにも、実践に根ざした研究のあり方をさらに追究していくことが求められている。

ご挨拶

東京大学総長 五神真

(現在準備中)

ご挨拶

文京区長 成澤廣修 様

小佐野重利センター長、五神真総長をはじめ、関係者の皆様に相談支援研究開発センター設立を心からお祝い申し上げます。

本センターは、相談事例の実績を活用した困難を抱える学生への効果の高い支援、多分野の専門家が連携することによるチーム支援の実践を柱とした「学生成長支援学」という新たな学問体系の発展を目指していると伺っております。

一例として、日本学生支援機構の2018年度の調査によると全国の大学に在籍する障害のある学生は10年間で5.4倍になっており、各大学における支援体制の構築が急務と言われております。そのような状況におきまして、複雑化、多様化する学生の相談ニーズに応えるため、学生への支援方法や予防教育について研究を行う本センターの役割は非常に重要であると認識しております。

また、本センターの具体的な活動内容を拝見しますと、学生の自殺防止対策が掲げられております。文京区でも令和元年7月に自殺対策計画を策定いたしました。本計画では、区と区内大学が連携し、学生の自殺防止に向けた事業や必要な情報の共有を図ることで自殺対策を推進していくと明記しており、自殺対策に関して、本センターと区との連携が一層求められております。

また、区では複合的な問題が背景にあるひきこもりに一元的に対応し、総合的な相談支援を行う体制の構築を目的として、4月より文京区ひきこもり支援センターを設置予定でございます。学生の困難事例に対応する本センターの相談対応の実践も参考にさせていただきながら、区のひきこもりの支援体制の強化を図っていきたいと考えております。

結びに、東京大学相談支援研究開発センターの今後の益々のご発展と、本日ご参会の皆様の一層のご健勝とご多幸を祈念いたしまして、お祝いのご挨拶とさせていただきます。